訪日外国人の患者さんの多くは、帰国後に自分の旅行保険へ医療費を請求します。そのときに必要になるのが、英文の診断書・領収書・診療明細書です。「どの書類に何を書けばよいのか」「いくらで発行すればよいのか」を、厚生労働省の医療機関向けマニュアルと、海外の保険会社の請求書類の一般的な要件をもとに整理します。
なぜ英文の書類が求められるのか
訪日外国人の患者さんの多くは、旅行保険に加入しています。観光庁の調査では、民間の医療保険に入っている訪日外国人は72.6%でした。その多くは、患者さんが窓口でいったん全額を払い、帰国後に保険会社へ請求する「立替払い型」です。
帰国後の請求では、海外の保険会社が書類を審査します。厚生労働省のマニュアルによると、保険会社は「どんな検査・診察をして、どんな処置・治療・薬を出したのか」の関係を見ています。この関係がわかりにくいと、支払いを断ったり、医療機関に問い合わせてきたりします。患者さんが保険金を受け取れるかどうかは、医療機関が出す書類にかかっているといえます。
保険請求で一般的に求められる書類
海外の保険会社が医療費の請求で求める書類は、会社によって違いますが、一般的には次のようなものです。
| 書類 | 英語での呼び方 | 用意する人 |
|---|---|---|
| 保険会社所定の請求書 | Claim form | 患者さん(医師の記入欄がある場合も) |
| 診療明細書 | Itemized bill / Itemized statement | 医療機関 |
| 領収書 | Receipt | 医療機関 |
| 診断書 | Medical certificate | 医療機関(医師) |
| 支払いの証明 | Proof of payment | 患者さん(カードの利用明細など) |
| 処方箋と薬局の領収書 | Prescription / Pharmacy receipt | 医療機関・薬局 |
なお、厚生労働省のマニュアルでは、書類は必ずしも母国語でなくてよく、日本語で通る場合もあるとしています。ただし、英語の書類であれば多くの国で通用するといわれています。
書類ごとの記載項目
診療明細書(Itemized bill)
保険の審査でもっとも重視される書類です。1回の受診で行った診療を、項目ごとに金額付きで並べます。
- 医療機関名・住所・電話番号
- 患者さんの氏名(パスポート表記)・生年月日・国籍
- 受診日
- 傷病名(可能であればICD-10コード)
- 項目ごとの内容と金額(初診・検査・処置・薬など)、数量、単価
- 合計金額と、自費診療であること

領収書(Receipt)
支払いを受けたことの証明です。受領日、金額、支払方法、医療機関名と、受領者の印または署名を入れます。厚生労働省のマニュアルは、金額の大きい領収書に明細が付いていないと、海外の保険会社から内訳を問い合わせられるため、明細を必ず付けるよう勧めています。保険会社によっては原本を求められることもあります。
診断書(Medical certificate)
治療が医学的に必要だったことを示す書類です。傷病名(ICD-10コード)、発症日・受診日、症状と所見、行った検査と治療、今後の見通し、医師の氏名と署名を記載します。公的に定められた英文診断書の様式はないため、保険会社所定の様式があればそれを使い、なければ自院の様式で作成します。
飛行機に乗るための書類を求められることもあります
けがや病気の状態によっては、航空会社所定の診療情報提供書がないと搭乗を断られることがあります。様式は航空会社のサイトから入手できることが多く、医師の免許番号の記入を求められる場合もあります。
受付で確認しておくこと
厚生労働省のマニュアルは、書類の依頼を受けたときに次の点を確認するよう勧めています。
- どの書類が必要か、何に使い、どこへ提出するのか
- 保険会社所定の様式があるか
- 作成料はいくらか、発行までに何日かかるか
- どうやって受け取るか(帰国前に受け取れるか、郵送やメールか)
帰国の日が迫っていることが多いため、受付の時点で必要な書類を聞いておくのが理想です。会計のときに初めて頼まれると、発行が間に合わないことがあります。英語版と日本語版を両方発行すると二重発行になるため、どちらか一方にします。
作成料の目安と請求のしかた
英文書類の作成料に公的な相場はありません。病院が公開している料金の例を挙げます。
| 獨協医科大学病院 | 英文診断書 8,800円(税込、2025年12月改定) |
|---|---|
| 東京歯科大学病院 | 英文診断書 16,500円(2026年4月改定) |
| 国立国際医療研究センター病院 | 領収証明書 2,200円(英語版も同額) |
作成料は、自院で作るのにかかる時間と手間をもとに決めます。保険会社によっては「通訳費」といった名目では支払わないことがあるため、明細では何の費用なのかがわかる書き方にしておくと、患者さんが請求しやすくなります。金額は、診察の前に伝えておきましょう。
英文書類づくりの負担を減らすには
英文書類の作成は、英語に慣れたスタッフがいないと時間がかかります。よく使う項目を英語にした自院の様式を用意しておくと、毎回ゼロから訳す手間を減らせます。厚生労働省の「外国人向け多言語説明資料」には、英語の医療費請求書・領収書の様式も用意されています。
DOCTUS VISITORS では、問診と会計の内容から、英文の診療明細書・領収書・診断書(医師が記入)を画面上で作成し、そのまま印刷やPDF保存ができます。発行できる書類は来院前に患者さんの母国語でご案内するため、会計で初めて頼まれて慌てることも減らせます。
この記事のまとめ
- 海外の保険会社は、検査・診察と処置・治療・薬の関係を見て審査する。
- 基本の3点は、診療明細書・領収書・診断書。領収書には明細を必ず付ける。
- 必要な書類と様式、受け取り方は、受付の時点で確認する。
- 作成料に公的な相場はない。自院の手間から決め、診察の前に伝える。
よくある質問
Q英文の書類は必ず英語で作らなければいけませんか?
必ずではありません。厚生労働省のマニュアルでは、書類は母国語でなくてもよく、日本語で通る場合もあるとしています。ただし英語の書類であれば多くの国で通用するといわれており、英語で用意しておくと安心です。
Q英文診断書の作成料はいくらにすればよいですか?
公的な相場はありません。公開されている例では、獨協医科大学病院が8,800円(税込)、東京歯科大学病院が16,500円です。自院の作成にかかる手間をもとに決め、診察の前に金額を伝えておくことが大切です。
Q領収書だけ渡せば保険請求できますか?
難しい場合があります。金額の大きい領収書に明細が付いていないと、海外の保険会社から内訳を問い合わせられることがあります。厚生労働省のマニュアルは、明細を必ず付けるよう勧めています。
Q英語版と日本語版の両方を発行してもよいですか?
同じ内容の書類を二重に発行しないよう注意が必要です。厚生労働省のマニュアルは、英語版と日本語版を両方発行することを避けるよう示しています。