日本の公的医療保険に入っていない訪日外国人の診療は、保険診療ではなく自由診療です。価格は医療機関が自由に決められますが、「1点10円のままでいいのか」「上げるならいくらが妥当か」「どう説明すればよいか」で迷う方は少なくありません。厚生労働省の資料と最新の実態調査をもとに、考え方を整理します。
訪日外国人の診療は「自由診療」
日本の公的医療保険は、日本に住んでいる人が加入するものです。観光などで短期間滞在する訪日外国人は加入していないため、その診療は保険診療ではなく自由診療(自費診療)になります。
自由診療の価格は、法律で決められていません。医療機関がそれぞれ任意に設定できます。多くの医療機関は、保険診療と同じ診療報酬の点数に、1点あたりの単価を掛けて計算しています。日本人が自費で受診する場合と同じく「1点10円」とするのが一般的ですが、これより高く設定することも認められています。
実際に、どれくらいの医療機関が価格を上げているか
厚生労働省の「令和7年度 医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査」で、訪日外国人の自由診療の1点あたりの単価を見ると、次のとおりです。
| 1点あたりの単価 | 割合 |
|---|---|
| 10円以下 | 80.7% |
| 10円超〜15円以下 | 6.2% |
| 15円超〜20円以下 | 4.5% |
| 20円超 | 3.6% |
病院の8割は1点10円以下のままです。ただし、外国人患者の受け入れ体制を第三者が認証した病院(JMIP・JIH認証の病院)では約7割が10円を超え、20円を超える病院が52.6%を占めています。受け入れ体制を整えている医療機関ほど、その費用を価格に反映していることがわかります。
同じ調査では、京都府と沖縄県の診療所も調べています。1点10円以下が75.5%で、「訪日外国人の診療価格算定方法マニュアル」を知らなかった診療所は73.0%でした。
価格を上げてよい理由:受け入れには追加の費用がかかる
厚生労働省の医療機関向けマニュアルは、通訳体制の整備や、保険会社とのやりとりにかかる費用などを反映した価格の設定も検討が必要だとしています。外国人患者の受け入れでは、日本人の患者さんにはかからない次のような手間と費用が生じます。
- 受付・問診・説明にかかる時間(翻訳アプリの往復、身振りでの確認)
- 医療通訳や翻訳ツールの費用
- 英文の診断書・領収書・明細書の作成
- 旅行保険会社やアシスタンス会社とのやりとり
- 未収金のリスクと、その回収にかかる手間
これらを1点10円の中で吸収していると、外国人の患者さんを診るほど医院の負担が増えることになります。
価格の決め方:厚生労働省の算定方法マニュアル
厚生労働省のウェブサイトで公開されている「訪日外国人の診療価格算定方法マニュアル」(第2.4版)は、訪日外国人の診療で増える費用を見積もり、価格に反映する方法を示しています。
考え方の骨格は、外国人患者の診療で増える時間、関わる人数、人件費の単価を係数にして、保険診療の価格に上乗せする費用を計算するというものです。時間外の対応であれば、人件費の単価を最大1.5倍で見積もります。
マニュアルの計算例では、保険診療の2.29倍や2.34倍といった結果になっています。ただし、これは計算の例であり、目安として示されたものではありません。厚生労働省の検討会資料も、議論の目的が「1点=○○円」という一つの価格にそろえることではないと明記しています。自院の実際の手間をもとに決めることが前提です。
「1点30円」は社会医療法人などの話です
2026年4月から、社会医療法人・特定医療法人・認定医療法人などは、訪日外国人の患者さんに限り、保険診療の3倍(1点30円)まで、かつ地域の標準的な料金の範囲で価格を設定できるようになりました。これらの法人は自費の患者さんを1点10円で診ることが要件だったため、その例外を設けたものです。一般の診療所の価格に上限を設ける規定ではありません。
単価を上げる以外の方法:手間に応じた料金を分けて設定する
1点あたりの単価を上げる代わりに、外国人患者の受け入れで生じる手間の分を、別の料金として設定する方法もあります。たとえば次のようなものです。
- 多言語での問診・説明にかかる費用
- 英文の診断書・領収書・明細書の作成料
- 通訳を手配した場合の費用
保険診療の外国人患者でも、通訳料・翻訳料は別に請求できます
日本の公的医療保険に加入している在留外国人の場合でも、日本語が分からない患者さんへの通訳料や、自国の保険請求に使う診断書などの翻訳料は「療養の給付と直接関係ないサービス」とされています。内容と金額を説明して同意を得れば、保険診療とは別に請求できます(平成17年 保医発第0901002号。医療機関向けマニュアルに解説があります)。
何に対していくらかかるのかが明確になるため、患者さんにも説明しやすく、保険会社に請求するときの明細もわかりやすくなります。DOCTUS VISITORS では、多言語の問診・翻訳・英文書類の作成にかかる費用として「多言語・書類サポート料」を設定し、問診の最初に患者さんの母国語でご案内する仕組みを用意しています。
トラブルを防ぐ価格の伝え方
診察の前に、理解できる言語で伝える
医療機関向けマニュアルは、患者さんが理解できる言語で、書面か口頭で概算の医療費を事前に伝えることを勧めています。検査や処置の内容によって金額が変わる可能性があることも、あわせて説明します。
「日本人の○倍」という言い方は避ける
マニュアルには、「日本人の倍です」と説明したことでトラブルになった例が紹介されています。国籍で価格が違うと受け取られると、不信感につながります。「日本の公的医療保険に加入していない方の料金です」と、保険の有無による違いとして説明するのが適切です。スタッフによって説明が変わらないよう、言い方を統一しておきましょう。
院内に掲示し、書面でも残す
料金の考え方は、受付やウェブサイトに多言語で掲示しておきます。概算の金額を伝えたことは、書面や記録に残しておくと、会計で「聞いていない」と言われたときの備えになります。
この記事のまとめ
- 訪日外国人の診療は自由診療で、価格は医療機関が任意に決められる。
- 病院の8割は1点10円以下のままだが、受け入れ体制を整えた病院ほど価格に費用を反映している。
- 価格は、厚生労働省の算定方法マニュアルの考え方を参考に、自院の実際の手間から決める。
- 「日本人の○倍」ではなく保険の有無による違いとして、診察の前に、理解できる言語で伝える。
よくある質問
Q訪日外国人の診療費を日本人より高くしてもよいのですか?
日本の公的医療保険に加入していない訪日外国人の診療は自由診療のため、医療機関が任意に価格を設定できます。通訳体制の整備や保険会社とのやりとりなど、外国人患者の受け入れにかかる費用を反映した価格の設定も、厚生労働省の関係資料で検討の対象とされています。
Q国が示している目安の単価はありますか?
公的な目安の単価は示されていません。厚生労働省の検討会資料は、議論の目的が1点あたりの価格を一つの金額に収斂させることではないと明記しています。価格の考え方は「訪日外国人の診療価格算定方法マニュアル」で示されています。
Q1点30円の上限は診療所にも当てはまりますか?
当てはまりません。2026年4月から、社会医療法人や特定医療法人などが訪日外国人患者に限って保険診療の3倍(1点30円)まで価格を設定できるようになりましたが、これらの法人に課されていた要件の見直しで、一般の診療所の価格を制限するものではありません。
Q価格はいつ伝えればよいですか?
診察の前です。医療機関向けマニュアルは、患者さんが理解できる言語で概算の医療費を事前に提示することを勧めています。金額が変わる可能性があることもあわせて説明しておくと、会計でのトラブルを防げます。