訪日外国人の約7割は旅行保険に入っています。ところが「保険があるから大丈夫」と思って診療を進めたら、実は立替払い型で、患者さんが手持ちのお金で払えなかった、ということが起こります。旅行保険のタイプごとに医療機関がとるべき対応を、厚生労働省のマニュアルと相談窓口の資料をもとに整理します。
訪日外国人の保険加入の実態
観光庁の「令和5年度 訪日外国人旅行者の医療に関する実態調査」では、民間の医療保険に入っている訪日外国人は72.6%でした。地域別では東南アジアが82.6%と高く、欧米豪は68.7%です。入っていない人も約4人に1人います。
加入のしかたで多いのは、旅行代理店や保険比較サイトでの加入、クレジットカードに付いている保険です。日本に入国してからオンラインで加入できる訪日旅行者向けの保険もあり、JNTO(日本政府観光局)が案内していますが、購入したことがある人は5%にとどまります。
患者さん自身が、自分の保険がどんな補償内容か把握していないことも多いため、「保険に入っています」という言葉だけで判断しないことが大切です。
旅行保険の3つのタイプ
厚生労働省の医療機関向けマニュアルは、訪日外国人の旅行保険を、医療機関への支払われ方によって次の3つに分けています。
| タイプ | 支払いの流れ | 医療機関の対応 |
|---|---|---|
| 立替払い型 (Pay & Claim) | 患者さんが窓口で全額を払い、帰国後に保険会社へ請求する | 保険がない患者さんと同じく、当日に全額を精算してもらう |
| アシスタンス会社による 支払保証 | アシスタンス会社から支払保証書(GOP)が届き、保証の範囲をアシスタンス会社が医療機関に支払う | 保証書が届くまでは全額払いの患者さんと同じ扱い。保証の範囲外は患者さんに請求 |
| 直接請求型 (Direct Billing) | 医療機関と保険会社が直接契約し、医療機関が保険会社に請求する | 非常に少ない。海外の保険会社から契約を持ちかけられても慎重に判断する |
実際には、入院はアシスタンス会社が払い、外来は患者さんが立て替えるといった混ざったタイプや、100ドルなどの自己負担(免責額)を患者さんから集める必要があるタイプも多くあります。
支払保証(キャッシュレス)の流れ
アシスタンス会社が付いている保険では、次の流れで支払保証が出ます。
- 患者さんが保険会社のコールセンターに連絡する
- 保険会社が、保険が有効か、補償の対象かを確認する
- アシスタンス会社が医療機関に支払保証書(GOP:Guarantee of Payment)を送る。補償の範囲や上限額が書かれている
- 保証された範囲の医療費を、アシスタンス会社が医療機関に支払う
保証書に書かれた上限を超えた分や、補償の対象外の分は支払われません。保証書を受け取ったら、上限額と対象範囲を必ず確認し、超える分は患者さんに請求します。
受付で確認すること
厚生労働省のマニュアルが示す受付での確認手順を、保険のタイプ別にまとめます。
立替払い型の場合
- 保険がない患者さんと同じく、全額を払う患者さんとして扱う
- 念のため、保険の開始日と補償の範囲を本人に確認する
- 帰国後の請求に必要な英文の書類(診療明細書・領収書・診断書)を聞いておく
アシスタンス会社が付いている場合
- 患者さんが保険会社に連絡済みかを確認し、まだなら至急連絡してもらう
- 支払保証書が届くまでは、現金やカードで払う患者さんと同じ扱いにする
- 保証額を超えた分、自己負担分、対象外の分は、患者さん本人に請求する
医療機関が避けたい対応
厚生労働省が委託している「夜間・休日ワンストップ窓口」の説明会資料は、医療機関向けに次の点を注意しています。
海外の保険会社と直接交渉しない
言葉や時差の問題、支払いの遅れ、一部しか支払われない、為替で目減りするといった問題があります。患者さんから保険会社に「日本の医療アシスタンス会社を通して連絡してほしい」と頼んでもらうことが勧められています。
同じ資料では、概算200万円の入院費について患者さんが「保険会社が払うから自分は払わない」と主張した事例が紹介されています。最終的には、患者さんが複数のクレジットカードを使って全額を支払いました。支払保証書を受け取っていない限り、患者さん本人に全額を払っていただくのが原則です。
対応に迷ったときは、厚生労働省の「夜間・休日ワンストップ窓口」(医療機関・自治体向け、平日17時〜翌9時と土日祝は24時間)に相談できます。
保険の確認を、診察の前に済ませるには
保険のタイプや補償の範囲を受付で一つずつ英語で聞き取るのは、外国語に慣れたスタッフでも時間がかかります。DOCTUS VISITORS では、患者さんが自分のスマホで母国語の問診に答える流れの中で、旅行保険の有無と保険会社名、当日の支払いに使うクレジットカードの確認までを、診察の前に済ませます。スタッフの画面には日本語で表示されるため、受付ではその内容を確かめるだけです。
この記事のまとめ
- 訪日外国人の約7割は旅行保険に入っているが、多くは帰国後に自分で請求する立替払い型。
- 支払保証書(GOP)が届いていない限り、患者さん本人に全額を払ってもらうのが原則。
- 保証書が届いたら、上限額と対象範囲を確認し、超える分は患者さんに請求する。
- 海外の保険会社とは直接交渉せず、日本の医療アシスタンス会社を通してもらう。
よくある質問
Q患者さんが「保険に入っている」と言えば、保険会社に請求できますか?
多くの場合はできません。訪日外国人の旅行保険は、患者さんが窓口で全額を払い、帰国後に自分で保険会社へ請求する立替払い型が珍しくありません。アシスタンス会社から支払保証書(GOP)が届いていない限り、患者さんに全額を払ってもらうのが原則です。
Q海外の保険会社と直接やりとりしてもよいですか?
避けたほうがよいとされています。言葉や時差の問題、支払いの遅れ、一部しか支払われない、為替で目減りするといった問題があるためです。患者さんから保険会社に、日本の医療アシスタンス会社を通して連絡してもらうよう頼むことが勧められています。
Q支払保証書が届いたら、全額を保険会社に請求できますか?
保証された範囲だけです。支払保証書には補償の範囲や上限額が書かれています。上限を超えた分、自己負担(免責額)の分、保証の対象外の分は、患者さん本人に請求します。
Q旅行保険に入っていない患者さんにはどう対応すればよいですか?
日本の保険がない方と同じく、自由診療として全額を当日に精算していただきます。診察の前に概算の金額を伝え、クレジットカードなどの支払い手段を確認しておきましょう。入国後にオンラインで加入できる訪日旅行者向けの保険もあり、JNTO(日本政府観光局)が案内しています。