外国人の患者さんとのやりとりで、いちばん安全なのは訓練を受けた医療通訳者による通訳です。ただ、診療所が常に通訳者を確保するのは現実的ではありません。通訳の方法ごとの特徴と費用、そして診療所も使える公的な通訳・相談窓口を整理します。
通訳の方法ごとの特徴
厚生労働省のマニュアルは、医療安全の面では訓練を受けた通訳者による対面通訳がもっとも望ましいとしたうえで、確保が難しい現実を踏まえ、方法を組み合わせることを勧めています。
| 方法 | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|
| 対面の医療通訳 | 表情や身ぶりも含めて正確に伝わる | 事前の手配が必要。費用が高い。急な来院に対応しにくい |
| 電話・ビデオ通訳 | 少数言語や24時間の対応ができる。人が通訳する | つながるまで数分かかることがある。電話では表情が伝わらないので「あちら」「これ」などの曖昧な言い方を避ける |
| 翻訳アプリ・翻訳機 | 今もっとも使われている。費用がほぼかからない | 誤訳を確かめられないことがある。日常会話に限るのが望ましい |
| 家族・友人・職員 | すぐに頼める | リスクがあると明記されている。専門用語の誤訳や、本人が話しにくいことが伝わらない |
翻訳アプリを使うときのコツ
短い文で、主語をはっきりさせて話します。訳された文をもう一度日本語に戻して、意味がずれていないか確かめる方法が勧められています。
電話通訳の2つのつなぎ方
- 2者間通訳:来院した患者さんと医療者が、1台の電話を受け渡すか、スピーカーにして通訳者と話す方法。
- 3者間通訳:患者さんからの電話を保留にして通訳の番号にかけ、3者が同時に話す方法。電話での問い合わせに向いています。
実際にどれくらい使われているか
厚生労働省の令和7年度調査では、医療通訳者がいない病院は93.6%、電話医療通訳を利用している病院は13.9%、タブレットなどの端末を病院として導入しているのは38.3%でした。同じ調査で京都府・沖縄県の診療所を見ると、電話通訳を利用しているのは1.7%です。多くの医療機関は、翻訳アプリや端末でしのいでいるのが実態です。
診療所も使える公的な通訳・相談窓口
| 窓口 | 対象と内容 | 料金 |
|---|---|---|
| 厚生労働省 希少言語に対応した遠隔通訳サービス | 診療所を含む全国の医療機関。登録制(登録無料)。24時間365日。17言語(タイ語、ベトナム語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ヒンディー語、タガログ語、ネパール語など)。英語・中国語・韓国語は対象外 | 最初の10分1,500円、以降5分ごとに500円(通話料は別) |
| 厚生労働省 夜間・休日ワンストップ窓口 | 医療機関・自治体向けの相談窓口。平日17時〜翌9時、土日祝・年末年始は24時間。通訳の案内や支払いの支援などに対応 | 無料(通話料は別) |
| 東京都 医療機関向け救急通訳サービス | 都内の医療機関。救急患者が対象。事前登録制。英語・中国語は24時間。ほかに韓国語・タイ語・スペイン語・フランス語・ベトナム語・ネパール語・タガログ語(時間帯あり) | 無料(通話料・通信料は医療機関負担) |
| 大阪府 24時間多言語遠隔医療通訳 | 府内のすべての医療機関と薬局。登録制。英語・中国語・韓国語・スペイン語・ポルトガル語・ベトナム語・タイ語・フランス語・ネパール語 | 通話料は医療機関負担(詳細は府のページで確認) |
ほかの都道府県でも、独自の通訳窓口を設けている場合があります。所在地の都道府県の担当部署のページを確認してみてください。料金や対象は変わることがあるため、利用の前に各窓口の最新の案内を確認しましょう。
通訳にかかる費用の目安
民間の通訳サービスの料金は事業者によって大きく異なり、公的な相場はありません。民間事業者の解説では、派遣型の対面通訳で1時間5,000〜15,000円程度、電話・ビデオ通訳で1分100〜300円程度、または月額制といった例が紹介されています。
訪日外国人の診療は自由診療のため、通訳にかかる費用を価格に反映できます(価格設定の考え方)。ただし、海外の保険会社によっては「通訳費」という名目では支払わない場合があるため、明細の書き方に注意が必要です。
通訳が必要な場面を減らすという考え方
通訳の費用と手間を抑えるには、通訳が本当に必要な場面に絞ることが有効です。受付での聞き取りや問診、支払い方法の確認といった定型的なやりとりは、患者さん自身に母国語で入力してもらえば、通訳がなくても済みます。
DOCTUS VISITORS では、受付・問診・保険とカードの確認・会計を、患者さんが自分のスマホで16言語で行います。スタッフには日本語で届くため、通訳は病状の説明や同意など、医師が直接伝える必要のある場面に集中して使えます。
この記事のまとめ
- 対面の医療通訳がもっとも安全。現実には電話・ビデオ通訳や翻訳アプリと組み合わせる。
- 翻訳アプリは日常会話まで。家族による通訳にはリスクがある。
- 厚生労働省や都道府県に、診療所も使える通訳・相談窓口がある。
- 定型的なやりとりは患者さん自身に母国語で入力してもらい、通訳は説明と同意の場面に絞る。
よくある質問
Q翻訳アプリだけで診療しても大丈夫ですか?
日常会話にとどめるのが望ましいとされています。厚生労働省のマニュアルは、翻訳アプリは誤訳を確かめられないことがあるため、訳した文をもう一度日本語に戻して意味を確かめる方法を勧めています。病状の説明や同意が必要な場面では、医療通訳を使いましょう。
Q家族や友人に通訳してもらってもよいですか?
リスクがあります。厚生労働省のマニュアルは、家族・友人・職員による通訳にはリスクがあると明記しており、海外では通訳なしや家族の通訳が原因の医療過誤訴訟も起きています。
Q診療所でも使える公的な通訳サービスはありますか?
あります。厚生労働省の「希少言語に対応した遠隔通訳サービス」は診療所を含む全国の医療機関が登録して使えます(有料、17言語。英語・中国語・韓国語は対象外)。大阪府の24時間多言語遠隔医療通訳など、都道府県が提供する窓口もあります。
Q通訳料を患者さんに請求できますか?
訪日外国人の診療は自由診療のため、通訳にかかる費用を価格に反映できます。日本の保険に加入している在留外国人の場合も、日本語が分からない患者さんへの通訳料は、説明と同意のうえで保険診療とは別に請求できるとされています。